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ライフスタイルガーデン部門

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八木 波奈子のブログ

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2017年12月07日
日比谷公園ガーデニングショー2017
ライフスタイルガーデン部門

第15回を迎えた日比谷公園ガーデニングショウは10月21日から29日までの9日間にわたって開催されました。初日と最終日に2つの台風に見舞われるという、屋外イベントとしては大変厳しい状況下で運営されましたが,関係者の努力が功を奏して事故も無く終了することができました。

毎年ガーデニングショーで話題となるのは、何といってもガーデンコンテストです。サイズの大きな部門から順に,「ガーデン部門」「ライフスタイルガーデン部門」「コンテナガーデン部門」「ハンギングバスケット部門」の4つがあります。今年の受賞作品数は総計29作品、各部門共通に東京都知事賞と東京都都市緑化基金賞が設けられている他,近年では国土交通大臣賞、農林水産大臣賞などもできました。

楽しさMAX!「ライフスタイルガーデン部門」の知恵比べ

中でも,今年注目を集めたのは「ライフスタイルガーデン部門」の作品群でした。わずか2m×3mのスペースに植物と構造物でバランスをとりながら、自然観や生活感を表現する庭部門です。こうした“小さな庭部門”は、この日比谷公園ガーデニングショーに限らず,どこで行われるガーデンイベントにも設けられていますが、小スペースに多要素を盛り込むことで、どうしても作品は矮小化され,不自然さを免れなくなる傾向がまま、見られたものです。しかし、今年日比谷公園に集結したクリエーターたちの発想力には、見るものを脱帽させるパワーがありました。コンテストガーデンというジャンルでは歴史の浅い日本ですが,制約の多い小スペースの庭が観客を納得させる域に達した今、ショーガーデン分野は成熟したと思います。審査員の一人である梶浦道成氏は受賞作品を評して、「ガーデンをデザインするプロセスに於いて“イマジネーションが空間を飛び出した”」と、コメントしています。大都会の真ん中で開催されるガーデニングショーがこれからも日本のガーデン界の牽引力となることを願います。

東京都知事賞「鈴なりの庭——君だけの未来地図」
Teamkid’s Jam 西武造園・西武緑化管理 & 時設計

庭は風景と環境である Gilles Clement/作庭家
文化的で美的な「風景」と生物学的で科学的な「環境」
眼差しの広がりのもとにあるものを、修景家は画家となって風景を紡ぎ出し
技術者は科学者となり環境を創り出す。
これは、佇む古木を長い時を刻んできた立木に見立て、
そこに潜む物語のアレゴリー。庭に足を踏み入れた子供たち皆が、そのお話しの主人公。
これは、溢れる程の想いと希望がたわわに実る「鈴なりの庭」

球体は何?

“お花でできた丸いお家”、つまりツリーハウスです。一人の少女が夢見た楽しい遊び場を想定しています。これまで「展示作品には手を触れない」というのが、ショウガーデンを鑑賞する時の約束事でしたが、この作品は触っても,登っても大丈夫としています。

大きさと構造

球体の頭頂部までおよそ7mあります。風を受けたら倒れるのでは?との心配は無用で、地上部の分厚い鉄板とデッキを合わせて3.5tの基部が、古木と球体をガッチリ支えています。構造計算上では瞬間風速50mまで大丈夫です。

景観的意味

この作品を見上げる時、同時に東京・日比谷界隈の高層ビル群が目に入ってくる。そしてその視界の中に突然加わるのは,吹き上がる大水量の噴水。「鈴なりの庭」という作品は,噴水の動感を伴って,たった6㎡で都心に新たな景観を創り出してしまったのです。

植物1

イベント期間中、頭頂部への頻繁な水やりが難しいと判断して,乾燥に強い植物を選んであります。エリンジウム,センニチコウ、ワレモコウ、スターチス、ムギワラギク、ワックスフラワー、ケイトウ、クラスペディア、ユーカリ、など。

植物2

デッキ下の植物群は日陰に強い品種の他,ヒメリンゴ、シュウメイギク、コケモモ、フジバカマ、チョコレートコスモス、ハマギク、ミントセージ、ダリア、セロシア、ダイアンサスレディーグリーン、マルバノキ、など。

制作者

時設計は、これまでに全国400カ所もの保育園、幼稚園などの園舎づくりを手掛けてきた設計会社。子育て施設の庭の重要性を認識し,ガーデン界では老舗の造園チームとともに子供の生活時間を設計に織り込みます。日比谷公園ガーデニングショー参加は今年で3回目。その内、東京都知事賞を2度受賞というキャリアを持つ。

東京都都市緑化基金賞 「ぼくのゆめにわ」~sense of wonder~
E&Gアカデミー 青山校

ぼくはうちゅうがだいすき!
アンドロメダ、ベルセウス、ミルキーウエイ…。
おおきくなったらぜったいにいくんだ!少年の想いはついに秘密基地と共に部屋を飛び出した。
昼は大空を眺め、夜は星空に想いを馳せる。
そんな自由な空間があってもいいよね。
そして足元に広がる自然の中の不思議や驚きに気づきワクワクしたりどきどきしたり。
その想いを未来に繋げて欲しい。
SNSやゲームに時間をついやしがちなこれからの子供たちへ。

作品ディテール

子供の勉強部屋が宇宙への夢とともに庭に飛び出した!丸窓の外にはUFOが浮かび,目の前の壁には北斗七星が光る。頭上のベッドには天体望遠鏡が設置されている。リアルさを十分に残しながらも,自由なイマジネーションのふくらみが、そのまま作品のスケールとなった面白い作品。

制作エピソード

E&Gアカデミーは,エクステリアやガーデンのデザイン制作を1年間で学ぶ専門学校です。今年は実習授業に代えて、日比谷公園ガーデニングショーのガーデンコンテストに学生12名でチャレンジしました(年齢は19〜56歳とバラエティに富む)。指導講師は有福創先生と小林裕子先生と芦川美香先生です。コンセプトに重点をおいて,全員一人3案を提出。最終に残った2案が決定戦に臨んでプレゼンを展開した結果,「ぼくのゆめにわ」が選ばれました。制作にあたっては、まず丁寧な模型を作り、「きれいな庭」を作ろうと気持ちを一つにしました。

植物

「きれいな庭」づくりの基本は植物選びです。“ロケット”を象ったオブジェの周囲が植栽のメインエリア。青色のサルビア・アズレア,黄色のコリウス、エルサレムセージ、アベリア,ペリシカリア,ユーフォルビア,ユーフォルビア・ブラックバード,斑入りシラン、グラス類等など。

優秀賞・コンセプト賞 「G. W. C.」ー緑のトイレー
涼寸(庭師・涼仙の若手ユニット 飯塚光平、他3名)

ふだん何気なく過ごしている生活の中で、
人と自然との距離をもっと計れないか。
誰もが必然的に行く所、一人になれる空間、ほっとできる場所…
探していたら,ポンッとトイレが浮かびました。
何もない小さな部屋がもっと緑で溢れていたら…
木々に包まれ,癒され、時にはひらめきも得られる。
人と自然がふれあう距離や時間が増えていったら、
私たちの意識はもっと大きく変わるのではないだろうか。

大きさ

2m×3mの床を、高さ4.5mもの高い木の壁が四方をぐるりと囲んでいるトイレ。中には実物の便器が設置されています。躯体はコンパネを使って大きな箱をつくり、表面を木材で仕上げる手法。

植物について

外壁にはヤブラン。フイリヤブラン、フッキソウ、ヤブコウジ、アイビーなどが工夫を凝らして植え付けられています。まるでフサフサの緑で覆われた箱のよう。内部には,下枝がない自然樹形の樹木を選びました。モミジ、ヤマボウシ、アオダモなどの落葉の雑木。便器に腰を下ろして見上げれば空があって、木々の枝葉が気持ちいい。

作品について

構成要素は実にシンプル。6㎡の中では全てが実物。トイレは確かに最小スペースで哲学的なスパイスを利かせられる空間であるとあらためて気付く。

制作者

庭師・涼仙という造園会社の若手が、“涼寸“と名付けたユニットを組んで制作にあたりました。森を開墾して作った会社の仕事場そのものが、この作品に近い雰囲気を保っているので、作品にも現実世界と空想世界のあわいの面白さをうまく生みだせたのかもしれません。

優秀賞・アイデア賞 「Papa Son のキッチン」
日比谷アメニス

3.11以降,食と暮らしについて考え直したパパは、
幼い息子に生きる力を託したかった。
そのためにパパが作ったのは、自分たちで生産する「食べる庭」と、分け合うための「動くキッチン」。
自慢の豊潤な庭から溢れたおすそ分けを目一杯に詰め込んで、
週末、親子は町へと走る。漂う出来立ての匂いにつられ、いつしか名も知らぬ人々がキッチンを囲み出す。
ここは緑と食が人と人を繋ぐ、パパと「サン」のギフトエコノミー拠点。

作品について

キッチンガーデンというコンセプトは珍しいものではありませんが,3.11からの思考とする設定の説得力,生きる力を息子へ託すとする2つ目のポイント,そして分け合うための仕掛けをデザインの中心に据えた点,などでインパクト大の作品にまとまりました。キッチンワゴンのしっかりとした車輪が“町へ出かける”という行動にリアリティをもたらしています。

植物について

色のある野菜苗では、ワサビ菜、パクチー,ミント,セージ、サニーレタス,サンチュ、スイスチャード,ミズナ、パープルキャベツ、パセリ。その他の植栽材料には、実付きオリーブ、パンダガジュマル、這性のローズマリー,大実のサンザシ、イチジク,斑入りグレゴマ、黒トウガラシ、ORトウガラシ 大実小実、チェッカーベリー、サボテン、等など、こだわりの選択。

キッチン小物

基本的に英文字の缶詰類、サバ、アンチョビ、スパムを用意。その他、パスタ、調味料、米,調理道具、手押しポンプシャワーなど。

制作者について

日比谷アメニスはガーデン業界の老舗。コンテストガーデン制作では、社内公募をしてメンバーを決めました。若手デザイナーに現場の施工メンバーが加わり、絵に描いたものをしっかりと具体的に表現することができました。

優秀賞・デザイン賞 「空の下で美しく」
ユピテル With mement・森

今日は私にとって特別な日。
いつもネガティブになってしまう心を、今日は自然の美しさを味方に付ける。
空の下の日溜まりで光のシャワーを浴びて、木々に囲まれた空気は私に身体の中から力をくれる。
ここはそれが叶う秘密の空間。さぁ出かけよう。
お庭に咲いている花のように一日一生懸命輝くために。
女性を綺麗に元気にして、もっともっと日本を元気に!

構成について

アイアンのオリジナルフレームで部屋空間をイメージづける。構成としては朝のけだるさを葉色で表現した左手前の角を起点に、反時計回りで植栽のカラートーンにより主人公の気分の変化を表現します。心を真っ白にして化粧コーナーに向かい,外出のために彩りを加えてゆく。左奥、紅葉したナツハゼを中心に構成された赤のゾーンの扉前に立つ時,すでに心は高揚し整っている。家具は女性の化粧コーナーを強くイメージさせるものを選択。

制作者について

外構&造園工事のユピテル(代表 小林篤)とメメント・森(代表 田鎖礼子 デザイナー 川井清美)のコラボで本作品を制作。
メメント・モリはラテン語で“死は必ずおとずれる。今を楽しめ”の意味をもちます。庭作りをすることで自分たちも,お客様も楽しめるようにと,この言葉を社名にしました。2017年「国際バラとガーデニングショー」のガーデンコンテストで大賞を受賞。



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執筆者プロフィール

ガーデニング誌『BISES』の元編集長。創刊から休刊までの146冊、25年間務めました。1997年流行語大賞トップ10に選ばれた「ガーデニング」は、私が全国に広めた言葉です。これはGARDENINGをカタカナにしたもので、造語ではありません。今では日本語として立派に定着しましたね。